今回、地域ケア会議で専門職として有効な助言を行うためのポイントを見直しました。青字の項目の部分を追加し、参考となる事例集のURLを最後に貼り付けております。
アドバイスにお役立てください。
- 地域ケア個別会議における専門職の役割
- 専門職の役割
専門職は地域ケア個別会議においては、助言者として利用者のニーズや生活行為の課題等を踏まえ、自立に処する助言を行い多職種の視点で事例の課題を解決することが求められています。
- 専門職による助言の目的と意義
地域ケア個別会議は、自立支援・重度化防止の観点を踏まえ、地域ケア個別会議を活用することによって「要介護者の生活行為の課題の解決等、状態の改善に導き自立を促すこと」ひいては、「高齢者のQOLの向上」を目指しています。地域ケア個別会議に多様な専門職が関わり、専門的な視点に基づいた助言を行うことにより、参加者が、自立に資するケアマネジメントの視点やサービスの提供に関する気づきを得ることができます。
地域ケア個別会議に参加する専門職は、医師、歯科医師、薬剤師、保健師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、管理栄養士、栄養士、歯科衛生士、介護・福祉専門職等が考えられます。これらの専門職は、地域ケア個別会議に参加し、その専門性に基づき、事例提供者に対して助言を行います。「高齢者のQOLの向上」という共通の目標に向けた支援を実現するために、課題抽出や課題解決に向けた支援のありかたについて、多職種が協働し多面的な視点から「実践につながる具体的な助言」を行うことが重要です。
ケアマネジメントのプロセスのなかで、地域ケア個別会議における専門職の助言は、ケアの提供への働きかけとなります。利用者の意向を確認した上で、利用者の生活行為の課題とその要因を踏まえた目標が設定されているか、目標を達成するために有効なサービスがケアプランに位置づけられているかを専門職が確認して助言することにより、支援チームにおける目標の共有や役割の明確化につなげます。
- 有効な助言のための共通事項
地域ケア会議における専門職による助言の注意点として、下記のような項目が考えられます。
➢ 全ての参加者にわかりやすい表現を心がけ、専門用語は出来る限り避けて説明する
➢ 何を伝えたいのか、論点を明確にして助言する
➢ 助言や説明はポイントを絞って、短時間で説明する
➢ 助言者として謙虚であることを意識し、威圧的にならないように配慮する
➢ 問いかけだけで終了せずに、参加者に有益になるアドバイスをすることを心がける
➢ 具体的かつ実行可能な助言をする
➢ 自身の専門に限らず、良いと思われる支援内容については、何が良いかを具体的に伝え、会議に参加している者で共有できるよう配慮する
出所)厚生労働省「介護予防活動普及展開事業 専門職向け手引き(Ver.1)」
2. 有効な助言を行うための基本的な考え方と手順
ここでは、地域ケア個別会議において、専門性として有効な助言を行うための基本的な考え方や手順をご紹介します。
(1)事例の理解と確認
はじめに、事例に関する情報を読み込み、事例の内容について理解します。事前に事例情報を読み込む際、提出された情報のうち、主に以下の点について重点的にチェックしましょう。
表2-2 地域ケア個別会議の資料一覧と確認ポイント
出所)厚生労働省「介護予防活動普及展開事業 専門職向け手引き(Ver.1)」P.15より一部改変。
(2)課題の明確化と背景要因の確認
提供された資料や事例提供者の説明から、生活行為の課題とその要因が明確になっているかを確認します。
具体的には、以下の点がポイントになります。
1.課題を中心とした情報の収集
① 生活行為の課題や、課題が生活に与える影響 ② 本人が認識している課題 ③ 本人が望んでいる状態や状況 ④ 本人が望んでいる支援 ⑤ 本人と家族の関係性 ⑥ 本人と知人、友人、近隣住民等との関係性 ⑦ 家族が認識している課題や意向 2.生活の中での「出来ること」と「出来ないこと」の能力評価 ① 「出来ること」と「出来ないこと」の整理 ② 「出来ること」のうち、「していること」「していないこと」の確認 ③ 「出来ること」のうち、出来る状況が限定されていたり、見守りが必要な生活行 為の確認 ④ 「出来ないこと」の工程分析をし、自立を妨げる要因の抽出 ⑤ 「していないこと」の要因分析をし、「していない」要因の解決方向の推測 3.「出来ない」要因の分析 ① 課題と背景要因(因果関係)の包括的な理解 ② 「出来ない」要因を個人・環境の視点で整理 ③ 「出来ない」要因に対して、期間限定的な支援が必要か、継続した支援が必要かの見極め ④「出来ない」要因に関する自立支援の観点から様々なアプローチの検討 ※予後予測や治療方針については医師または歯科医師に確認すること |
出所)厚生労働省「介護予防活動普及展開事業 専門職向け手引き(Ver.1)」p.16
これらのポイントについて、不明瞭な点がある場合は、事例を提供している介護支援専門員や介護サービス事業所に対して、具体的な問いかけを行います。それによって、介護支援専門員や介護サービス事業所から必要な情報を引き出したり、資料へのより良い記載方法やアセスメントにおける重要な視点などについて気付きを与えることができます。
(3)目標と支援内容の確認
次に、生活行為の課題を改善・解決し、目標の実現につながる支援内容になっているかを確認します。
確認の視点としては、「生活行為の課題が的確に把握されているか」「ケアプランの目標は適切に設定されているか」「サービス内容は目標達成のために適切であるか」が重要です。
●生活行為の課題が的確に把握できていない場合
生活行為の課題を適切に抽出できるよう、アセスメントの視点や具体的なアセスメント方法などについて助言する必要があります。
●ケアプランの目標が適切に設定されていると言えない場合 今後の見通しに基づいて、目標とする期間内に実現可能な目標を設定できるよう助言する必要があります。また、だれにでも当てはまる一般的な表現ではなく、本人の意向を踏まえた具体的な目標を設定し、本人が真に望んでいることや意欲を引き出すための方策についても助言することが望まれます。
●サービス内容が目標達成のために適切であると言えない場合 |
(4)実践につながる助言の提供
助言する際には、介護支援専門員や介護サービス事業所にとって、実践につながるよう具体的でわかりやすい形で伝えることが重要です。具体的には、以下の点に留意しましょう。
全ての参加者がわかる表現で助言する
・分野が限定されるような専門用語は避けて、理解しやすく具体的な助言を提供することが求められます。 ・直接の助言相手が介護サービス事業所の同じ専門職であったとしても、参加者全員の共通理解を得るために、他の参加者も理解できる表現で話す配慮が必要です。
具体的かつ実践可能な助言を提供する ・専門的見地から、心身機能の低下や今後の見通しを見極めるだけなく、以下のような視点で、具体的かつ介護サービス事業所の担当者ができる支援方法を示すことが重要です。 「どのような支援があれば、本人が望む生活行為・社会参加が可能になるか」 「どうすれば悪化を遅らせることができるか」 「健康管理上もしくは疾病管理上、注意しなければならない点をどのようにして把握することができるか」 ・抽象的な一般論に終始することなく自立支援の視点で、この事例において具体的に「いつ」「誰が」「どこで」「何を」「どうしたらよいか」を助言しましょう。
優先度を踏まえた議論をする ・専門性の見地から、特定の関心事を深く掘り下げすぎてしまう場合があります。限られた時間の中で生活行為の課題に焦点を当てた議論を進めるためにも、自らの専門性として最も影響が大きいと考えられる課題を優先して助言することを心がけましょう。
本人・家族・関係者との共通理解を得るための支援をする ・助言内容を踏まえた支援をするためには、本人が真に望んでいることや意欲を引き出し、家族や関係者の理解を得ることが重要です。そのためには、背景要因の理解や、今後の生活像についての共通理解が重要のなるため、それらの点についても助言をしましょう。
地域資源に関する確認・課題提起する ・専門職の観点から、地域資源に関して確認し、課題提起することが重要です。地域資源の現状について把握していない場合には、他の参加者に確認した上で、今後求められる地域資源について助言をすることが望ましいといえます。 |
3. 職種別の助言ポイントと工夫
ここでは、地域ケア個別会議に参加する主な専門職の職種別に、問いかけや助言を行う際の留意点を説明します。それぞれの職種の専門的見地から、専門職としての知識や技術を活かし、共通の目標に向けた支援の方法を考えることを念頭に置いて、問いかけや助言を行うことが重要です。
多くの専門職が一堂に会して会議に出席することは大変な事でもありますが、より多くの専門職種が関わり議論を重ねることにより、新たな発見やさらなるQOLの向上につながることがあります。
地域ケア個別会議開催の工夫として、当日の会議に出席できない専門職に対して、事前に書面等において意見や助言等を仰ぐ工夫を図ることもできます。その際に、出席できない専門職に対して、あらかじめ市町村や事例提供者が確認したい内容や助言など、必要としている点についてまとめ、事前にコメントをもらっておく形で関与していただくという方法もあります。
また、かかりつけ医やかかりつけ歯科医のいる事例については、事例提供者は、事例の予後予測や治療方針等について事前に確認するとともに、地域ケア個別会議で検討後は検討内容を報告することも重要です。
なお、ADL(Activities of Daily Living : 日常生活動作)とは、日常生活を営む上で、普通に行っている行為(例えば、食事、排泄、整容、移動、入浴等)のことを言います。
IADL(Instrumental Activities of Daily Living : 手段的日常生活動作)とは、日常生活を送る上で必要な動作のうち、ADLより複雑で高次な動作(例えば、買い物、洗濯、掃除等の家事全般、金銭管理・服薬管理等)のことを言います。(出所:厚生労働省「介護予防活動普及展開事業 市町村向け手引き(Ver.1)」P.17.)
4.訪問看護師の助言のポイント
保健師・看護師は、医療知識を持った上で全身状態を把握し、心身面のみならず生活の側面にも配慮し、状態の維持、改善に向け具体的な取り組みについて提案、助言していく役割を担っています。
ステップ | 専門職としての視点、具体的な確認や推察の内容 | 生活援助サービスを
頻回利用している場合 |
事例の理解と確認 | <確認事項>
・本人や家族の意向を捉える上で不足している情報がないか、どのような面談、聞き取りを通してそれが本人及び家族の意向として整理できているか ・病気の特性の把握(進行性あるいは慢性、廃用性等) ・日常生活自立度を判断した根拠 ・本人及び家族のストレングス ・家族や地域との関係性 ・病状の安定性 ・直近の主治医の見立て ・治療内容(内服・通院・往診・注射など) |
<確認事項>
・精神疾患や不定愁訴やセルフネグレクト等による一時的に生活援助が多く必要なのか、継続的に必要なのか、病態の不安定性等の根拠 |
課題の明確化と背景因子の確認 | <確認事項>
・介護や支援が必要となっている背景要因の押さえやADL・IADLの低下が疾病の有症状から引き起こされていないか(どこが、どのように、なぜ) ・どのような情報を収集し、分析し、ニーズとして捉えたかその背景と根拠 ・医療ニーズが高いと判断した根拠、もしくは判断していなかった理由 ・認知症、進行性難病、循環器疾患、生活習慣病、骨整形外科疾患、がん等の疾患に関する特性の理解と課題分析にどのように反映しているか ・リスク管理や健康管理・体調管理についてどのように考えたか ・セルフケア、家族支援、地域支援、フォーマル支援の妥当性についての判断の根拠について
|
・個人・環境因子から生活援助の必要性について確認する
・健康・疾患管理等を行うことで改善の可能性がないかを検討する ・セルフケア、家族・地域力で補えるか、もしくは改善できる可能性を探る |
目標と支援内容の確認 | <確認事項>
・ニーズに応じた解決策となっているか ・長期・短期目標の設定の仕方と具体策に連動性と確実性があるか ・医療ニーズが高い場合、そのニーズを踏まえた目標設定や支援内容となっているか ・認知症、進行性難病、循環器疾患、生活習慣病、骨整形外科疾患、ガン等疾病による特異性の理解をどのように具体的な支援内容に盛り込み、支援者間で共有したか ・セルフケアや家族力向上のために取り組みを意識した内容について ・目標達成のために必要な取り組みの内容、期間の妥当性について |
・短期・中間・長期的な視点を持ち、環境整備や動作改善等を考慮し、個別・具体的な支援内容を検討・提案する |
実践につながる助言のポイント | ・看護の視点を活かしながらも、生活者の視点を忘れず助言する
・家族、地域関係の再構築の可能性も含めて具体的な助言、チームアプローチを上手く進めていくためのアドバイス等行う ・生活助言が必要な要因を押さえ、中長期の支援を視野に入れながら自立支援や重度化防止のために必要な支援内容や動機づけ・行動変容に結びつけるための情報提供の方法や支援者間の意思統一、情報共有など具体的な助言を行う |
・生活歴や家族、近隣関係等含めた対応で、生活がより改善できる具体的なアドバイスがあれば検討・提案(セルフケア含む)する |
出所)厚生労働省「多職種による自立に向けたケアプランに係る議論の手引き」P.42-43
5.事例集
参考となる事例集を以下のURLに貼り付けています。
こちらのサイトを参照ください。
▼
「多職種による自立に向けたケアプランに係る議論の手引き」について
P.58~67に事例集掲載
「多職種による自立に向けたケアプランに係る議論の手引き」について – 一般社団法人全国訪問看護事業協会 (zenhokan.or.jp)
▼
松江市個別地域ケア会議 事例集
http://www.shakyou-matsue.jp/chss/file/info_for_office_jireisyu-no2_202207.pdf